アイルワースのモナリザについて 2


 ではタテに垂直の線を引いてみたらどうだ?
 と思って鼻筋から線を引いてみると、……… さて、いかがですか?

 これは明らかに違う。身体部分の左右の比率が違う。アイルワース版はルーブル版に比べて、絵、右側の身体部分が大きい。縮尺を同じにすると、アイルワース版は、左肘が画面からはみ出るほどですね。これで前かがみの姿勢に見える。
 左肩から大きな脂肪の塊を乗せるようにしてヴェールを描いたため、顔が不自然に本来の位置の左斜め下に見える。
また胸元の白い部分の形も
 左上の、絵の右側を削除した写真をご覧下さい。ルーブル版と同様、スラリと背筋が立って ……… いや、やはり少し首が長すぎ。前に倒れている。不自然に左にズラした分だけ首を長くしたと言った感じですね。もう少しアゴを引いた方が良い、ほんのちょっと顔が右上の方が良いように思えます。どうやらボディラインだけで首をすくめた感じが出ているのではないようです。

 
ラファエロの模写

 この 『 首をすくめた 』 姿勢は、ラファエロの模写にも見て取る事が出来ます。ラファエロの天才は、全体の印象を素早く描き取ったのでしょう。ルーブル版のモナリザを模写したのなら、どうしてもスラリとした姿勢に成り、この前かがみの印象はないと思われます。
 首の部分をご覧下さい。ややデフォルメ ( 誇張 ) されていますが、少し長く、前に倒した特徴が良く出ています。ラファエロは、この特徴に反応したのです。これでは 「 ラファエロが模写したのは、アイルワース版に決定かな? 」 と思われて来ます。
 ラファエロは 「 モナリザのキュビズム 」 に反応したのではないか? この模写をじっと見ていると、どんな姿勢で座っているか分かりにくい。ルーブル版のモナリザも、 「 妙に身体をひねっている 」 とか、 「 腕のふくらみが不自然だ 」 とか言われていますね。これは腕とヴェールによって幾重にも仕掛けられたトリックなのですが、ラファエロの模写のおかげで、それらの萌芽はすでにアイルワース版にも見られる事に気づきました。 ( 腕に関しては布施英利先生の 『 モナリザの微笑 』 ( p15~16 ) を、ヴェールのトリックについては拙文 『 モナリザは複数のボディラインを持つ 』 をご参考下さい。 )

 ラファエロの模写は、どちらのモナリザにも顔が全然似ていないため、眉の有無の論議などで少々混乱を来たしましたが、全体的な印象には鋭敏に反応し、本当にそのままを写し取ったのかも知れません。意外にもたくさんの情報をもたらしてくれました。
 しかしラファエロは、モナリザの顔には反応しなかったのです。
 男女融合の神秘や、見る距離によって変わる視線の謎などはアイルワース版には見られず、顔立ちはまったく、どうでも良かったのです。

 身体部分の左右の比率の差は何か? この問題を考える前に、私がアイルワース版のモナリザをレオナルドの親筆と考える、いくつかの理由をご紹介しましょう。

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